さっく!の記憶

向井康二くんを追いかけた日々

あれはたしかに、幻ではなかった

今から語るエピソードは全て、3年以上も前のことである。
『関西ジャニーズJr. X'mas Show 2016』の公演中だった。遥か昔のことだが、なかなか形に残すタイミングが訪れなかった。
康二くんがようやくデビューを迎えたことで、過去への執着がなくなった。今ならようやく、あの日のことを記せる。

これは、2016年の冬に私が体験した、一夜だけの奇跡である。

 

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2016年12月14日。関西ジャニーズJr. X'mas Show 2016』のチケットを握りしめた私はひとり、大阪松竹座を訪れた。
今年、康二くんはどんなソロ曲を披露してくれるんだろう。幕の下りたステージを前に胸を高鳴らせた。

今年、康二くんが選曲したのはKAT-TUNのWhite Xmasだった。

今 雪が舞い散る
この空の遠い向こうには
新しい誰かが待つ
消せぬ想い抱きながら 

康二くんがKAT-TUNを、しかもWhite Xmasを選ぶのは少し意外だった。が、康二くんの透き通る歌声の活きる素敵な曲だった。

セトリのラストは、関西ジャニーズJr.のオリジナル曲SEE YOU AGAIN。
この曲には、ただならぬ思い出がある。かつて向井康二のシンメであった、金内の退所。美容師という新たな夢を追いかける彼の背中を押す一曲だった。

たとえ離れ離れでも たった一つの約束
心求めてさまよう僕らを
勇気づけて 笑いかけて
また会えると

もう一度、彼と康二くんが笑い合う姿を見ることは叶わなかったけれど。今こうしてステージに立ち続け、関西ジャニーズJr.を立派に率いている康二くんの姿を前にして、胸がいっぱいになった。

彼は、柊真は今頃、何をしてるのかな。
康二くんは今も、夢を追いかけ続けているよ。

 

それから数日、数週間後であったと記憶している。
休日の予定が終わり夜ご飯を済ませようと、都内で一人、ふらりと立ち寄った飲食店。
「ご注文は?」とオーダーをとりにきた青年。顔を上げた瞬間、驚いた。

柊真だった。

一瞬、時が止まったように感じた。動揺する心を抑え、注文を伝えた。
なぜここに?本当に柊真なのか?
さまざまな疑問が浮かんできたが、彼はもう退所した身。
今の彼の生活がどんなものであるかわからないが、Jr.だったことを隠しているかもしれない。私がここで影響を与えるわけにはいかない、と冷静を装い続けようと決心した。

 

その時だった。店内のBGMが次の曲へ。
流れてきたのは、KAT-TUNのWhite Xmasだった。

心臓の鼓動が早くなる。康二くん。この曲を、康二くんが歌ったんだよと、心の中で目の前にいる柊真に語りかけた。勿論、彼には伝わらない。

これから先も決して2人が出会うことはない。それぞれが別の道を歩んでいる。
ただ、道は違えど、夢を追い続けていることは同じなんだと。

その時流れていたWhite Xmasが柊真に聞こえていたのか、何を想ったのかなんて、どうだっていい。今こうして、2人の想いは同じなのだから、それだけで幸せすぎると、素直に思った。

 

それから長い時を経たずして、Twitter上に柊真が現れ、美容師免許を取得し、夢へ一歩ずつ近づいているという報告がされた。

あの日の一瞬の出来事は、たしかに幻ではなかった。